支援室紹介
機器分析分野 核磁気共鳴装置(NMR)の紹介(科学研究基盤技術支援室)
核磁気共鳴装置(Nuclear Magnetic Resonance: NMR)は有機合成化学、天然物化学、創薬化学、高分子科学、生命科学などの研究分野で有機分子の構造情報を得るために不可欠な大型分析装置です。強磁場下にある原子核が外部から電磁波を照射されたときに周辺環境に応じて特定の電磁波を吸収する現象(共鳴現象)を利用して、有機化合物の化学構造を推定することができます。
科学研究基盤センター機器分析分野では日本電子株式会社(JEOL Ltd.)の400 MHz、500 MHz、600 MHz NMRとブルカー(Bruker)の600 MHz NMRを管理・運用しています。
NMRで得られる情報
NMR測定では有機分子における様々な情報を得ることができます。汎用されるのが1Hおよび13Cの化学構造情報です。有機分子の母核は主に炭素で構成されており、この炭素とそれに付随する水素の構造情報はとても重要です。しかし、残念ながらNMR測定しても自動的に化学構造が推定されるわけではありません。NMRデータはフーリエ変換されたNMR吸収スペクトルとして得られます。すなわち、このスペクトルを読み解く知識・技術が必要になり、研究始めたての学生さんを大いに悩ませます。また、未知の有機分子構造を推定するうえで1Hおよび13Cのような個別の1次元データだけでは情報不足に陥ります。そんな時は原子間構造情報を得るため、HMQC、HMBC、COSY、NOESYなどの2次元測定を行う必要があります。
研究での実例
では、実際の研究例を紹介します。スイカの幼果に含有するフェノール性配糖体の構造解析に関してです。1H NMRでは芳香族領域に2つのベンゼン環およびトランス型二重結合の存在がわかります。中間領域には糖およびそれ以外のメチン・メチレン水素が確認できます。高磁場側には2つのメチル水素が存在しています。13C NMRでは1H NMRデータで存在が確認できた部分構造に加えて2つのエステルカルボニル炭素が確認できます。
これらの1次元情報をCOSY、HMQC、HMBCなどの2次元情報を組み合わせて部分構造をつなげていくと化合物の構造が推定できます。その他、NMR以外のIRやHRMSデータなどと照合して総合的に化学構造は決定されます。
NMR運用に関する諸問題
NMRは超伝導を維持するために大量の液体ヘリウムが必要です。しかしながら、液体ヘリウム単価は急騰しており、NMR運用には莫大な維持費が必要になっているのが現状です。
これはロシアのウクライナ侵攻や中国の過剰買い占めなどによる供給懸念が要因です。こんなところにも世界情勢の変化は影響を与えています。